
自己肯定感の語源
自己肯定感という言葉とその概念は比較的新しいものです。その言葉を最初に使った「自己肯定感の生みの親」とされている方がいますので「自己肯定感 A to Z」(たま いちえ・阿部隆行共著、2023年6月6日発行)から、その解説部分を引用します。
その言葉を最初に使ったのは臨床心理学者であり、立命館大学の名誉教授・京都教育センター代表である高垣忠一郎先生です。高垣先生は既に引退されていますが、これまで長年大学で教える傍ら、臨床心理とカウンセリングの現場で若者と向き合ってきた臨床心理学のプロフェッショナルです。高垣先生はそのご経験から、若者がその生きづらさを解消するためには「自分が自分であって大丈夫」と、自分を受け入れることが大切であるとして「自己肯定感」という概念を広められたのだと思います。
初めて「自己肯定感」という言葉が書物に登場したのは、1994 年のことです。この年に刊行された高垣先生のご著書「大事な忘れ物 登校拒否のはなし」(法政出版)の中に「自分が自分であって大丈夫という『自己肯定感』」という記述があります。
さらに遡って、1991 年刊行のご著書「揺れつ戻りつ思春期の峠」(新日本出版)にも「自分が自分であって大丈夫」という記述があり、それ以前から高垣先生はこの概念の大切さを人々に伝えていたことがわかります。
その高垣先生は、現在の自己肯定感にまつわる意味や使われ方に警鐘を鳴らしておられます。
なんどもいいますが「自分が自分であって大丈夫」とは自分の特性や性能を評価して自分を肯定するものではありません。自分の持つ性能・特性がどうであろうと、たとえ、それが気に入らないものであろうと、それもまた「あるがままの自分」だからとそれを引き受けて生きることです。それは自分とともに生き、その子と共に生きた時間と歴史のなかで培われる、「みちづれ」的存在へのいとおしさから生まれる自己肯定感だといういい方もできるかもしれません。
高垣忠一郎著「いきづらい時代と自己肯定感」89ページから引用
ここまで「自己肯定感 A to Z」 第1部第2章より引用。

能力が高いこと、何かができること、何かを達成することは間違いなく好ましいことです。しかし、それらがなくても、もしくは将来それらがなくなってしまっても「自分が自分であって大丈夫、とあるがままの自分を受け入れる」ことこそが自己肯定感の本来の意味なのです。
私たちがこの自己肯定感の本来の意味に立ち返ることはとても大切です。
なぜなら先ほど述べたような「能力を高めましょう、頑張って何かができるようになりましょう、何かを達成することで自己肯定感を上げましょう」では、結果的に「それが出来ない自分、つまり自己肯定感を上げることができない自分はダメな人間だ」となってしまいやすいからです。それでは自己肯定感という言葉がまったく逆の意味で使われることになり、自己肯定感が私たちを苦しめる言葉となりかねません。
自己肯定感の意味

高垣忠一郎先生のお言葉からは「自分が自分であって大丈夫、とあるがままの自分を受け入れる」ことが自己肯定感であると読み取れます。それをここで少し整理してみましょう。
高垣忠一郎先生先生の自己肯定感は二つのパートから成り立っています。
- 自分が自分であって大丈夫
- と、あるがままの自分を受け入れる
二つのパートはとても似ていますが、同じではありません。ですから、どちらか片方だけでは不十分だと思います。
(この記事の範囲外ですが、この二つのパートには実に深い意味と関係性があります。そして、自己肯定感を育てていく上で、その意味と関係性はとても大切です。)
ここで「自分が自分であって大丈夫」「あるがままの自分を受け入れる」とは何を取り扱っている言葉なのか、という点に着目してみましょう。
これらは喜怒哀楽に代表されるような感情の一種ではありませんし、暗い・明るいというような気分とも違います。(「感」という漢字から自己肯定感を感情の一種と定義している人がいますが、それでは自己肯定感の本来の意味を見失いまいます。)
これらの言葉には「大丈夫」という状態や「受け入れる」というアクションが示されています。しかし「何を取り扱っているか」というと、一人一人の心の内の、自分に対する思いや観かた、つまり主観なのです。
ですから言葉の定義としてまとめると、自己肯定感とは
『「自分が自分であって大丈夫である」「あるがままの自分を受け入れる」主観』
である、と言えます。
そうすると、自己肯定感は自分の心の内の、自分に対する思いや観かたである主観の一つですから、自分次第で変えて(育てて)行けるということになります。
ここまで、自己肯定感の語源と意味を解説してきました。
自己肯定感については「自己肯定感 A to Z」(たま いちえ・阿部隆行共著)をお読みいただけると、より理解が深まります。
この記事は阿部隆行が tamalabo.com において2024年5月13日に投稿したブログ記事を引き継ぎ、2025年1月18日に加筆修正したものです。